東京高等裁判所 平成10年(行ケ)406号 判決 2000年12月14日
原告
株式会社荏原製作所
代表者代表取締役
【A】
原告
株式会社東芝
代表者代表取締役
【B】
両名訴訟代理人弁護士
高村一木
同
野上邦五郎
同
杉本進介
同
冨永博之
同弁理士
【C】
被告
特許庁長官【D】
指定代理人
【E】
同
【F】
同
【G】
同
【H】
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告ら
特許庁が平成9年異議第71480号事件について平成10年10月13日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告らは、発明の名称を「真空排気装置および真空排気方法」とする特許第2538796号の特許(平成1年5月9日出願、平成8年7月8日設定登録、以下「本件特許」といい、その発明のうち、後記請求項1のものを「本件発明1」、請求項2のものを「本件発明2」といい、これらを「本件発明」と総称することがある。)の特許権者である。
特許庁は、平成9年4月2日、本件発明1についても、2についても、本件特許への異議の申立てを受け、これを平成9年異議第71480号事件として審理した。原告らは、取消理由通知を受け、その指定期間内である同年11月25日に、本件出願の願書添付の明細書(以下「本件明細書」という。)について訂正請求をした(以下「本件訂正」という。本件訂正に係る明細書を「訂正明細書」という。)。特許庁は、上記事件につき審理した結果、平成10年10月13日、「特許第2538796号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定をし、同年11月30日、その謄本を原告らに送達した。
2 特許請求の範囲
(1) 本件発明に係る特許請求の範囲
(請求項1)
「複数の動翼を備えたロータと複数の静翼を備えたスペーサとを有し、吸気口から気体分子を取り込み、圧縮して排気口から排出するターボ分子ポンプと、該ターボ分子ポンプの吸気口側に配備され、ヘリウム冷凍機により冷却され気体分子を凍結捕集する熱交換器とから構成され、該熱交換器の吸気口側と真空容器とを締切弁が設けられた吸気系配管で接続し、該締切弁を開閉することにより、前記熱交換器を真空容器に対し分離あるいは接続可能に構成し、かつ、該熱交換器にはヒータを設けるか又はヘリウム冷凍機を休止することによって凍結捕集した分子を気化させる再生手段を有することを特徴とする真空排気装置。」
(請求項2)
「真空容器とターボ分子ポンプの吸気口との間に、ヘリウム冷凍機により冷却し気体分子を凍結捕集する熱交換器を配備し、かつ、真空容器と該熱交換器との間の吸気系配管に締切弁を配備した真空容器の真空排気方法において、該締切弁を開け、ターボ分子ポンプとヘリウム冷凍機とを運転する排気工程と、該締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転し、熱交換器をヒータで加熱するかもしくはヘリウム冷凍機を休止することにより熱交換器に凍結捕集した分子を気化させる再生工程とを含むことを特徴とする真空容器の真空排気方法。」
(2) 本件訂正に係る特許請求の範囲(下線部が訂正により追加された箇所である。)
(請求項1)
「複数の動翼を備えたロータと複数の静翼を備えたスペーサとを有し、吸気口から気体分子を取り込み、圧縮して排気口から排出するターボ分子ポンプと、該ターボ分子ポンプの吸気口側に配備され、ヘリウム冷凍機により-100°C~-200°Cの温度に冷却され水分子を選択的に凍結捕集する熱交換器とから構成され、該熱交換器の吸気口側と真空容器とを締切弁が設けられた吸気系配管で接続し、該締切弁を開閉することにより、前記熱交換器を真空容器に対し分離あるいは接続可能に構成し、かつ、締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転した状態で、該熱交換器をヒータで加熱するかもしくはヘリウム冷凍機を休止することによって熱交換器に凍結捕集した分子を気化させる再生手段を有することを特徴とする真空排気装置。」
(請求項2)
「真空容器とターボ分子ポンプの吸気口との間に、ヘリウム冷凍機により-100°C~-200°Cの温度に冷却され水分子を選択的に凍結捕集する熱交換器を配備し、かつ、真空容器と該熱交換器との間の吸気系配管に締切弁を配備した真空容器の真空排気方法であって、該締切弁を開け、ターボ分子ポンプとヘリウム冷凍機とを運転する排気工程と、該締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転し、熱交換器をヒータで加熱するかもしくはヘリウム冷凍機を休止することにより熱交換器に凍結捕集した分子を気化させる再生工程とを含むことを特徴とする真空容器の真空排気方法。」
(別紙図面(1)参照)
3 本件決定の理由
本件決定の理由は、別紙決定書の理由の写しのとおりである(なお、5頁4行及び5行の「クライオポンプ10によりバッフル9b、80Kアレー9aにより」は、「クライオポンプ10によりバッフル9b、80Kアレー9aを冷却し、その冷却されたバッフル9b、80Kアレー9aにより」の誤記と認める。)。
要するに、①本件訂正に関しては、本件訂正に係る特許請求の範囲の請求項1及び同2記載の各発明(以下、順に「訂正発明1」、「訂正発明2」といい、これらを「訂正発明」と総称することがある。)は、実願昭62-73938号(実開昭63-182525号)のマイクロフィルム(甲第4号証。以下「引用刊行物1」という。)、「日本真空協会創立25周年記念 第20回真空に関する連合講演会」の講演録「14a-2 JFT2用ベーカブルクライオポンプ」(昭和54年11月14日)(甲第5号証。以下「引用刊行物2」という。)、1980年JOHN WILEY&SONS、INC.発行の「A User’s Guideto Vacuum Technology」(甲第6号証。以下「引用刊行物3」という。)及び米国特許第4679402号明細書(甲第7号証。以下「引用刊行物4」という。)にそれぞれ記載された技術(以下、審決が上記各刊行物から引用した技術を、順に「引用発明1」、「引用発明2」、「引用発明3」、「引用発明4」という。)及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明できたと認められるので、特許法29条2項の規定に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないと判断し、②特許異議申立てについては、本件発明1及び同2は、いずれも、引用発明1ないし同3及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明できたと認められるので、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである、と判断したものである。
第3原告ら主張の取消事由の要点
本件決定の理由1(手続の経緯)は認める。
同2(訂正の適否)中、(1)(発明の要旨)は認める。(2)(引用刊行物の認定)のうち、引用刊行物3において「ターボ分子システムにおいて、締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転し、熱交換器を加熱することにより熱交換器に凍結捕集した分子を気化させる再生工程。」が開示されているとする点(7頁3行~6行)は争い、その余は認める。(3)(対比・判断)の対比における一致点の認定のうち、引用刊行物1の「排気トラップ部」が訂正発明1及び2の「熱交換器」に相当するとした点は争い、その余は認める。相違点1、同2に対する判断は争う(ただし、一部認めるところがある。)。(4)(むすび)は争う。
同3(特許異議申立てについての判断)中、(1)(発明の要旨)は認める。(2)(引用刊行物の認定)のうち、引用刊行物3において「ターボ分子システムにおいて、締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転し、熱交換器を加熱することにより熱交換器に凍結捕集した分子を気化させる再生工程。」が開示されているとする点(15頁9行~12行)は争い、その余は認める。(3)(対比・判断)の対比における一致点の認定のうち、引用刊行物1の「排気トラップ部」が本件発明1及び同2の「熱交換器」に相当するとした点は争い、その余は認める。相違点1、同2に対する判断は争う(ただし、一部認めるところがある。)。(むすび)は争う。
本件決定は、①本件訂正については、訂正発明1及び同2と引用発明1との一致点の認定を誤り(取消事由1)、訂正発明1及び同2と引用発明1との相違点1及び同2についての認定判断を誤り(取消事由2及び同3)、その結果、訂正発明1及び同2の進歩性を否定して独立特許要件を欠いていると判断して、本件訂正は認められないとし、②特許異議申立てについては、本件発明1及び同2と引用発明1との一致点の認定を誤り(取消事由4)、本件発明1及び同2と引用発明1との相違点1及び同2についての認定判断を誤り(取消事由5及び同6)、その結果、本件発明1及び同2の進歩性を否定して特許要件を欠いていると判断し、本件特許は取り消されるべきであるとしたものであり、違法であるから、取り消されるべきである。
1 取消事由1(訂正発明と引用発明1との一致点の誤認)
(1) 本件決定は、引用発明1の「排気トラップ部」が、訂正発明にいう「熱交換器」に相当するとし、引用発明1が、訂正発明にいう「熱交換器」の構成を有している点で訂正発明と一致するとしているが、この認定は誤っている。そもそも、訂正発明は、クライオポンプの使用をあえて排除した点に主たる特徴があるものなのであるから、クライオポンプを使用する引用発明1の「排気トラップ部」が訂正発明の「熱交換器」に相当するなどということはあり得ない。
(イ) 訂正明細書に記載されている「クライオポンプ」とは、極低温において凝縮、吸着により排気を行い、気体密度を下げて真空を形成しようとするものである。
クライオポンプは、一般に、外側のシールド及びバッフル部分と、その内側のクライオパネル部分の2段構造をしており、前者は、低温冷凍機(一般的にはGifford-McMahon冷凍機又は略してG-M冷凍機と称される。)のコールドヘッドの第1ステージに連結されて80°K以下(一般的には60°K~80°K)の温度に冷却されており、後者は、低温冷凍機のコールドヘッドの第2ステージに連結されて20°K以下(一般的には10゜K~20°K)の温度に冷却されているものである。
水(H2O)などの飽和蒸気圧の低い気体は、高真空でも130°K以下になれば凝縮されるので、外側のバッフルで凝縮固化がなされるのに対し、飽和蒸気圧が高いアルゴン(Ar)、窒素(N2)、酸素(O2)などは、外側のバッフルでは凝縮固化されず、内側のクライオパネル(20°K以下)で凝縮固化がなされ、さらに飽和蒸気圧の高い水素(H2)やヘリウム(He)については、10°Kでも凝縮しないため、クライオパネルでも凝縮固化されず、一般には、クライオパネルに取り付けられて冷却された活性炭で吸着(クライオソープション)させている。このようにクライオポンプは、外側のバッフルと内側のクライオパネルの両方により、気体を凝縮、吸着させて排気を行うものであり、まさにこの外側のバッフルと内側のクライオパネルとを備えたところに大きな特徴があるのである。
(ロ) 被告は、クライオポンプの意義について、「マグローヒル科学技術用語大辞典 第2版」(乙第1号証)を引用し、クライオポンプが必ず2段の構造を持つものであると限定的に解釈すべき理由は何ら存在しない旨主張する。
しかし、クライオポンプは、単なる冷凍機とは異なり、あくまでも超高真空ポンプであって、それが任意の温度変更ができるようなものでないことは、当業者であれば誰でも知っていることであり、このことは、甲第5号証(引用刊行物2)、甲第9号証(1990年(平成2年)11月26日株式会社産業技術サービスセンター発行「実用真空技術総覧」)、甲第10号証(昭和63年11月15日社団法人日本冷凍協会発行「REFRIGERATION」11月号 VOL.63NO.733)、甲第19号証(昭和57年7月アルバック・クライオ株式会社発行「研修資料 No.1 クライオポンプ入門」)、甲第20号証(「Theory and Practice of Vacuum Technology」)、甲第21号証(1982年11月9日日本真空技術株式会社編集「真空ハンドブック増訂板」)などからも明らかである。
(ハ) 訂正発明が、クライオポンプの使用をあえて排除したことは、訂正請求に係る明細書(以下「訂正明細書」という。)の「ヘリウム冷凍機を使用し15°Kから20°K程度の超低温の熱交換器を備えた所謂クライオ真空ポンプを用いた場合には、水蒸気についての排気特性が良好となるので、上述の不都合にある程度対処することができる。しかしクライオ真空ポンプの場合は、(1)冷凍機駆動に係わる起動・停止時間が長い、(2)いわゆる溜め込み式なので、一定の負担運転が終了する毎に再生運転を長時間に亘って行う必要がある、(3)気体分子の種類により昇華温度が異なるため、再生運転時には熱交換器の温度上昇に従って各種気体分子は高濃度にて順次ポンプから分離排出されるが、この分離排出に対応してその後の処理を行うことが困難である。特に半導体製造プロセスにおいては、モノシラン(SiH4)、フッ化水素(HF)のような有毒、高腐蝕性、爆発性、可燃性の気体を窒素(N2)、ヘリウム(He)等の不活性ガスで希釈して使用するので、これら各種気体が分離排出されることに対応するのが非常にむずかしい、という問題点があった。」(甲第3号証5頁5行~6頁6行)とクライオポンプの欠点が指摘され、それを受けて、「本発明は上述した従来技術の欠点に鑑みて提案されたもの」(同6頁7行~8行)であると明記していることから明らかである。
訂正発明が、クライオポンプをあえて排除したのは、クライオポンプの欠点を回避しようとしたものであり、特に、再生におけるクライオポンプの欠点、すなわち、爆発性や有毒性のあるガスがクライオポンプの再生時に分離濃縮されて出てくること、特にその中のシランが現実問題として半導体製造プロセスの大きな事故を引き起こすようになってきたという欠点を回避しようとしたものであり、あえてクライオポンプの使用を排除し、ターボ分子ポンプによりガスを連続排気する手法を基本とし、ガス負荷は大きいが再生においては何等危険性のない水分子のみを、ヘリウム冷凍機により-100°C~-200°C(173°K~73°K)の温度に冷却してトラップする熱交換器をターボ分子ポンプの入口に設け、排気性の向上と合理的な再生が可能となる真空ポンプを実現させたのである。
(ニ) これに対し、引用発明1の「排気トラップ部」は、クライオポンプを排除したものではないことが明らかであるからから(別紙図面(2)参照)、これが訂正発明にいう「熱交換器」に当たることはあり得ない。要するに、訂正発明にいう「熱交換器」と引用発明1にいう「排気トラップ部」とは、本質的に異なったものである。
(2) 本件決定は、「ヘリウム冷凍器により熱交換器が-100°C~-200°Cの温度に冷却され水分子を選択的に凍結捕集する」(決定書9頁4行~6行、11頁12行~14行)という点を、一応、相違点1の中に挙げたものの、「刊行物1のものは、冷却されたバッフル9b、80Kアレー9a(熱交換器)によりH2Oと熱輻射の大部分を吸着するものであり、特に他のガスの凍結吸着について記載が無い以上、該熱交換器は、水分子を選択的に吸着しているものと解される。」(決定書9頁19行~10頁4行、12頁7行~12行)と認定し、結局、訂正発明1と引用発明1とは、いずれも、「水分子を選択的に吸着している」点で一致しているものと認定した。
しかし、引用発明1は、「水分子を選択的に吸着しているもの」ではないから、この点でも、本件決定の認定は誤っている。
引用発明1では、スパッタチャンバーにロータリーポンプが設けられ、スパッタチャンバーの排気系にメインバルブ及び排気トラップ部を介してターボポンプが接続された従来の半導体製造装置の排気トラップ部について、従来なされていた、冷媒を一過的に供給する方法やポリコールド冷凍機により冷却する方法ではなく、クライオポンプを排気トラップ部に設けるようにしたものである。したがって、それは、冷媒を供給する方法によらずに、液体窒素を冷媒として供給する方法により到達できるような温度にまでするために、クライオポンプを排気トラップ部に設けたものであり、その技術的思想としては、水分子の大部分を吸着しようとしたものではあるけれども、そこには水分子を選択的に吸着しようとの技術的思想は全くなかったことが明白である。
本件決定は、引用刊行物1に、水分子以外のガスを全く凍結吸着せず、水分子のみを選択的に吸着するような技術事項が示されているわけではないのに、水分子以外のガスの凍結吸着について記載がない以上、訂正発明1の「熱交換器」に相当する引用発明1の「排気トラップ部」が、水分子を選択的に吸着しているとしているのであり、失当であることは明らかである。
また、訂正発明と引用発明1とでは、前者が、クライオポンプを排除することによって、その構成を、水分子を選択的に吸着するものとしているのに対して、後者では、引用発明1の排気トラップ部は、クライオポンプを排除していないから、その構成を、水分子を選択的に吸着するものとしていない点でも相違しているのである。
(3) 以上のとおり、本件決定は、引用発明1の「排気トラップ部」が訂正発明にいう「熱交換器」に相当し、訂正発明と引用発明1とは、いずれも、「水分子を選択的に吸着している」点で一致する、との誤った認定を前提に、訂正発明と引用発明1とを対比し、進歩性の判断をしているのであり、上記認定判断の誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、この点において既に違法であり、取り消されるべきである。
2 取消事由2(訂正発明と引用発明1との相違点1についての判断の誤り)
本件決定は、相違点1に関し、訂正発明が、熱交換器の温度を-100°C~-200°Cとした点は、冷凍吸着すべき水分子の飽和蒸気曲線から当業者が容易に採用し得る設計上の事項であり、また、熱交換器をヘリウム冷凍機により冷却することは引用刊行物2に記載されているから、冷却手段としてヘリウム冷凍機を採用することに格別の困難性はない旨判断し、相違点1についての想到困難性を否定した。しかし、上記判断は誤っている。
(1) 引用発明1においては、水分子を選択的に凍結吸着しているという前提がない以上、それを前提に熱交換器の温度を-100°C~-200°Cとすることは当業者が容易に採用し得る設計上の事項であるといったところで、何の意味もないことは明らかである。つまり、水分子を選択的に冷凍吸着する温度範囲について飽和蒸気曲線から採用することが知られていたとしても、そもそも水分子を選択的に冷凍吸着しようとの考えがなければ、水分子を選択的に冷凍吸着する温度範囲を採用することが単なる設計事項にすぎないなどとは到底いえないことは明白である。
(2) 本件決定は、引用発明1について、「冷却温度は水分子が冷凍吸着する温度範囲でクライオポンプが運転されているものと解するのが自然である」(決定書10頁4行~6行、12頁12行~14行)と認定している。
しかし、クライオポンプが、単なる冷凍機とは異なり、あくまでも超高真空ポンプであって、それが任意の温度変更ができるようなものでないことは、前述のとおりであり、もし仮に、単に80°Kの温度の冷却面しかないとすれば、そのようなものは超高真空ポンプとしての機能は果たし得ず、そのようなものをクライオポンプと当業者が称するはずがないのである。本件決定の考えは、クライオポンプが単なる冷凍機にすぎず、その冷凍温度を任意に設定変更できるものであるとの誤った考えを前提とするものである。
3 取消事由3(訂正発明と引用発明1との相違点2についての判断の誤り)
本件決定は、①訂正発明1に関して、「請求項1に係る発明は、締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転した状態で、該熱交換器をヒータで加熱するかもしくはヘリウム冷凍機を休止することによって熱交換器に凍結捕集した分子を気化させる再生手段を有するのに対し、刊行物1記載のものは、再生手段については明らかでない点。」(決定書9頁11行~16行)で相違すると認定したうえ、この相違点(相違点2)について、「締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転した状態で熱交換器を再生することは、前記刊行物3に記載されており、熱交換器に再生手段として加熱ヒータを設けることも前記刊行物4に記載されている。」(同10頁14行~10頁18行)と認定し、②訂正発明2に関して、「請求項2に係る発明は、締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転し、熱交換器をヒータで加熱するかもしくはヘリウム冷凍機を休止することにより熱交換器に凍結捕集した分子を気化させる再生工程を含むのに対し、刊行物1記載のものは、再生工程については明らかでない点。」(同11頁19行~12頁4行)で相違すると認定したうえ、この相違点(相違点2)について、「締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転した状態で熱交換器を加熱する再生工程について、前記刊行物3に記載されている(判決注・引用刊行物4に言及していないのは誤記であり、「熱交換器に再生工程として加熱ヒータを設けることも前記刊行物4に記載されている」との語句を追加すべきものと認める。)」(同13頁5行~7行)と認定し、その結果、いずれも、相違点2についての想到困難性を否定した。しかし、本件決定の上記認定判断は明らかに誤っている。
訂正発明は、真空容器と熱交換器との間の締切弁を締めるだけで、システムをあえて閉鎖(シャットダウン)する必要なく、しかも、システムを閉鎖させずにターボ分子ポンプの運転を継続することにより、積極的に熱交換器の再生を行うことができるのである。一方、引用刊行物3には、システムを閉鎖せずにターボ分子ポンプを運転した状態で、再生することについては一切記載されていない。
本件決定が指摘する引用刊行物3(甲第6号証)の「セクション10.1.1に記載されているとおり使用する場合、システムの閉鎖は高真空バルブを閉じ、液体窒素トラップを緩めることによって開始される。トラップが平衡状態になったとき、フォアラインバルブが閉じられ、ターボ分子ポンプのモータへの動力が除去される。」(268頁16行~20行)との記載は、あくまでシステムを閉鎖するときの話であるから、引用発明3のシステムを閉鎖する場合の再生の記載から、システムを閉鎖しない場合における訂正発明の「ターボ分子システムにおいて、締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転し、熱交換器を加熱することにより熱交換器に凍結捕集した分子を気化させる再生工程。」が記載されているとしたのは、明らかに誤りである。
4 取消事由4ないし6(本件発明と引用発明1との一致点の誤認、本件発明と引用発明1との相違点1及び同2についての判断の誤り)
本件発明と訂正発明とは、前者が「ヘリウム冷凍機により冷却された気体分子を凍結捕集する熱交換器」としていたのを、より明確に「ヘリウム冷凍機により-100゜C~-200゜Cの温度に冷却され水分子を選択的に凍結捕集する熱交換器」とした点、及び、前者の再生手段についてより明確にするために、後者で「締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転した状態で」とした点が異なるだけである。本件決定は、本件発明との一致点を誤認し、本件発明と引用発明1との相違点1及び同2についての判断を誤っており、その理由は、取消事由1ないし同3で述べたところと同様である。
第4被告の反論の要点
本件決定の認定判断は、いずれも正当であり、本件決定を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(訂正発明と引用発明1との一致点の誤認)について
(1) 引用発明1の「排気トラップ部」が、訂正発明にいう「熱交換器」に相当するとし、引用発明1が、訂正発明にいう「熱交換器」の構成を有している点で訂正発明と一致するとした本件決定の認定に誤りはない。
(イ) そもそも、クライオポンプとは、「マグローヒル科学技術用語大辞典第2版」(乙第1号証)に、「低温ポンプcryogenic pump、cryopump 【低温】きわめて高い真空をつくり出す低消費電力の高速真空ポンプ。圧力を下げるために、内部を通常、液体ヘリウムや液体または気体水素を用いてえられるような極低温にした容器の表面にガスを凝縮させる。」(1062頁)と記載されているように、ある気体の存在する空間に冷却面を置き、この冷却面に気体を冷却凝固させることにより蒸気圧を極めて低くして、低圧を得る手段をいうものである。
原告らは、クライオポンプは、一般に2段の構造をなしており、すなわち、外側のバッフルと内側のクライオパネルの両方により、気体を凝縮、吸着させて排気を行うものであり、まさにこの外側のバッフルと内側のクライオパネルとを備えたところに特徴があると主張するけれども、クライオポンプが必ず2段の構造を持つものであると限定的に解釈すべき理由は何ら存在しない。
(ロ) 引用刊行物1(甲第4号証)の記載内容をみると、「上述した従来のトラップ方式で効率よくH2O、輻射熱を排気するには冷媒としてLN2を用いることが望ましいが、装置への供給、清浄度、コスト面等で問題があった。」(2頁4行~7行)、「上述した従来のトラップに対し、本考案はガス閉サイクルのポリコールドの利点とLN2のトラップ効果の効率良さを取り入れ、低温部から熱伝導によりバッフルに伝導しトラップ効果を向上させるという独創的内容を有する。」(2頁11行~15行)、「前記排気トラップ部8は、LN2の効率の良いトラップ効果と、ポリコールドのガス閉サイクルの使い良さ、経済性に着目し、クライオポンプ10の低温特性を利用し80Kアレー9aとバッフル9bとにより構成される。バッフル9bはクライオポンプ10の低温部からの熱伝導を受けてトラップ効果を作用する。」(3頁11行~17行)、「そのとき、クライオポンプ10によりバッフル9b、80Kアレー9aを冷却し、その冷却されたバッフル9b、80Kアレー9aによりH2Oと熱輻射の大部分は吸着される。」(4頁2行~5行)、「以上説明したように本考案はクライオポンプの低温特性を利用してトラップ効果を向上させてウェハー交換に伴うチャンバー内の排気中に発生するH2O及び熱輻射を短時間に吸着することにより、半導体製造装置のサイクルタイムを短縮できる効果を有するものである。」(5頁15行~20行)という記載からみて、排気トラップ部8を構成するものは、80Kアレー9aとバッフル9bだけであり、バッフル9b及び80Kアレー9aは、H2Oと熱輻射の大部分を吸着する一段の熱交換器を構成するものである。
したがって、引用発明1の「排気トラップ部」は、訂正発明の「熱交換器」に相当するということができる。
(2) 原告らは、引用発明1は、「水分子を選択的に吸着しているもの」ではないと主張する。
しかし、そもそも、真空技術の分野において、「その温度によって、水分子を選択的に凍結捕集するコールドトラップ」は、乙第2号証(1984年PHOTONICS SPECTRA発行「PHOTONICS SPECTRA」2月号)に、「第2図は、標準モデルの典型的な加熱及び冷却速度を示している。クライオコイルは、初期システム予備冷却の後、90秒未満で+30°Cから-110°Cに冷却することができる。-140゜Cの最終クライオ表面温度になるのに、約7分かかる。チャンバ開口のためのコイル再加熱は+35゜Cまで90秒以内である。このような迅速な熱伝達は、制限された重量で内部熱貯蔵のクライオ表面を使用することによって達成することができる。」(2頁1欄下から3行~2欄11行)、「水蒸気は、生成チャンバにおける最も大きなポンプ負荷であるので、ポンプコンビネーションを使用することは意味をなし、これは、処理しなければならない全てのガス負荷にとって最も経済的である。速いサイクル水クライオポンプは、拡散ポンプ、クライオポンプ、ターボ分子ポンプなどの、ほとんど他のすべての高真空ポンプに付加することができる。」(3頁1欄22行~31行)と記載されているとおり、従来より知られた公知の技術である。
また、前述のとおり、引用発明1において、排気トラップ部8を構成するものは、80Kアレー9aとバッフル9bだけであり、バッフル9b及び80Kアレー9aは、H2Oと熱輻射の大部分を吸着する熱交換器を構成するものであるから、排気トラップ部8は、水分子を選択的に凍結捕集しているものである。
2 取消事由2(訂正発明と引用発明1との相違点1についての判断の誤り)について
水分子を選択的に凍結捕集するに当たって、その温度を冷凍吸着すべき水分子の飽和蒸気曲線から採用することは単なる設計上の事項であるから、相違点1に関して想到困難性を否定した本件決定の判断に誤りはない。
3 取消事由3(訂正発明と引用発明1との相違点2についての判断の誤り)について
原告らは、本件発明は、真空容器と熱交換器との間の締切弁を締めるだけで、システムをあえて閉鎖する必要なく、しかも、システムを閉鎖せずにターボ分子ポンプの運転を継続することにより、積極的に熱交換器の再生を行うことができる旨主張し、本件決定が引用発明3を引用したことを攻撃する。
しかしながら、再生工程の後にシステムの閉鎖を伴うか、伴わないかは、訂正発明に係る特許請求の範囲において特定される事項ではないから、原告らの主張は前提において根拠のないものである。
また、引用刊行物3(甲第6号証)には、「ターボ分子システムにおいて、締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転し、熱交換器を加熱することにより熱交換器に凍結捕集した分子を気化させる再生工程。」が記載されていることが明らかである。引用発明1は、水分子を選択的に凍結捕集するものであるから、これに引用発明3の上記技術事項を適用することによって、容易に、再生工程の後に、システムの閉鎖を伴わないように構成し得るものである。
4 取消事由4ないし6(本件発明と引用発明1との一致点の誤認、本件発明と引用発明1との相違点1及び同2についての判断の誤り)
原告らの主張には理由がなく、本件決定の認定判断に誤りがないことは、取消事由1ないし3に対する反論で述べたのと同様である。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正発明と引用発明1との一致点の誤認)について
(1) クライオポンプについて
(イ) 乙第1号証(マグローヒル科学技術用語大辞典第2版)によれば、「クライオポンプ」とは、一般的に、「低温ポンプcryogenic pump、cryopump」を意味するもので、その内容は、「きわめて高い真空をつくり出す低消費電力の高速真空ポンプ。圧力を下げるために、内部を通常、液体ヘリウムや液体または気体水素を用いてえられるような極低温にした容器の表面にガスを凝縮させる。」(1062頁)とされていることが認められる。
甲9号証によれば、1990年11月26日株式会社産業技術サービスセンター発行「実用真空技術総覧」には、
「3.3.1 2種類のクライオポンプ
密閉容器(真空容器)の中に入れた金属面(クライオパネル)を冷却してゆくと先ず水分つづいて蒸気圧の低い順にガス分子が金属面に凝縮固化捕捉される。残った空間のガス分子の減少(圧力の低下)から容器は真空になる。クライオポンプは冷却手段により次の2種に大別される。
① 液体ヘリウムと液体窒素を用いるポンプ
② 小型冷凍機を用い15Kまで冷却するポンプ
茲では(2)について述べる。実用されている冷凍サイクルはG-M、Mソルベ、逆スターリング等でJ-T膨張ではなく、サイモン膨張(1946年佛サイモンの発見)によるものである。
3.3.2 クライオポンプの構造、排気の原理
写真3.3.1、図3.3.1に代表的な内部構造を示した。1段ステージのコールドヘッドおよびこれに連結する80Kシールド80Kバッフルは130K以下に冷却され、2段ステージのコールドヘッドおよび15Kパネル①と②は20K以下に冷却される。真空槽内の気体はそれ自身の熱エネルギにより空中を飛び交わっていて気体の方からポンプ内へ飛込んでくる。」(138頁)
との記載があることが認められ、図3.3.1には、これに対応する図面が示されていることが認められる。
甲第10号証によれば、昭和63年11月15日「REFRIGERATION VOL.63 NO.733」(社団法人日本冷凍協会)には、「クライオポンプは極低温における凝縮(Cryo-Condensation)、吸着(Cryo-Sorption)および凝縮層に吸着した気体を埋めこんでいくクライオトラッピング(Cryo-Trapping)によって排気するものである。凝縮について説明する。気体の温度を下げていくと気体分子の熱運動速度は、小さくなり凝縮が起りはじめる。この状態で温度を一定に保つと凝縮が停止し、圧力一定となり気相から固相または液相に入射する分子数と離脱する分子数が平衡している。これが飽和蒸気圧で、気体分子の種類と温度できまる圧力である。・・・クライオポンプに用いる小型冷凍機の最低温度は、約10Kまで下る。」(75頁右欄34行~76頁左欄8行)、「小型2段ヘリウム冷凍機を使用した高真空クライオポンプの外観と排気部の構造を図8に示す。・・・第1パネルは、温度を50~70Kの範囲に保ち、第2パネルヘの熱輻射量を低減させ、同時に飽和蒸気圧の高い水蒸気や、CO2などを凝縮させる役割を持っている。第2パネルの外面は・・・第1パネルからの輻射を受け約10~14K程度になっている。この面にN2O2、Ar・・・等の気体が主に凝縮する。内面はポンプの中で最も低温の10K程度の部分であり、ここに熱伝導性のよい樹脂で活性炭を接着してあり、飽和蒸気圧の高いH2、He、Neの気体を低温吸着させる構造になっている。」(76頁右欄16行~77頁左欄32行)との記載があることが認められる。
上記各記載によれば、クライオポンプとは、ある気体の存在する空間に超低温の冷却面を置き、この冷却面に気体を冷却凝固させることにより蒸気圧を極めて低くして、高い真空を作り出すものを総称しているものであり、その代表的なものとして、2段の構造をなし、外側のバッフルと内側のクライオパネルの両方により、気体を凝縮、吸着させて排気を行うものがあることが認められる。これによれば、現実に用いられているクライオポンプの語の意味するところは、状況により異なり得るものであることが明らかである。
(ロ) 原告らは、甲第5号証、第9号証、第10号証、第19号証ないし第21号証を挙げて、クライオポンプは、単なる冷凍機とは異なり、あくまでも超高真空ポンプであって、それが任意の温度変更ができるようなものでないことは、当業者であれば誰でも知っている旨主張する。
しかしながら、甲第5号証、第9号証、第10号証、第19号証ないし第21号証を検討しても、原告ら主張の事実を認め得ず、その他、本件全証拠によっても、同事実を認めるに足りる証拠を見出すことはできない。原告らの上記主張は、失当である。
(2) 引用発明1の「排気トラップ部」が訂正発明の「熱交換器」に相当するか否かについて
(イ) 訂正発明の特許請求の範囲には、訂正発明にいう「熱交換器」について、「ヘリウム冷凍機により-100°C~-200°Cの温度に冷却され水分子を選択的に凍結捕集する熱交換器」との記載があるものの、上記「熱交換器」について、これを限定的に解すべきことを根拠付ける格別の記載は存在しない。
一方、引用刊行物1(甲第4号証。実願昭62-73938号(実開昭63-182525号)のマイクロフィルム)に、「(実施例1)・・・第1図において、スパッタチャンバー3にロータリーポンプ1を接続し該チャンバー3の排気系3aにメインバルブ5及び排気トラップ部8を介してターボポンプ2を接続する。またロータリーポンプ1とターボポンプ2とを接続させてある。前記排気トラップ部8は、LN2の効率の良いトラップ効果と、ポリコールドのガス閉サイクルの使い良さ、経済性に着目し、クライオポンプ10の低温特性を利用し80Kアレー9aとバッフル9bとにより構成される。バッフル9bはクライオポンプ10の低温部からの熱伝導を受けてトラップ効果を作用する。・・・該チャンバー3内をロータリーポンプ1で荒引き排気した後、メインバルブ5を開き、高真空に排気する。そのとき、クライオポンプ10によりバッフル9b、80Kアレー9aを冷却し、その冷却されたバッフル9b、80Kアレー9aによりH2Oと熱輻射の大部分は吸着される。」(3頁3行~4頁5行)との記載があることは、当事者間に争いがない。
また、同号証によれば、その第1図(別紙図面(2)第1図)には、上記記載に対応する図面が示されていることが認められる。
以上の事実によれば、「排気トラップ部8」は、クライオポンプ10の低温特性を利用する80Kアレー9aとバッフル9bとにより構成され、80Kアレー9aとバッフル9bは、クライオポンプ10の低温部からの熱伝導を受けてのトラップ効果により、水分子(H2O)と輻射熱の大部分を吸着するというものである。
そうすると、引用発明1の「排気トラップ部」は、クライオポンプにより超低温に冷却された80Kアレー9aとバッフル9bにおいて、水分子を凍結捕集しているのであるから、訂正発明の「熱交換器」と比べると、後者が、ヘリウム冷凍機により-100°C~-200°Cの温度に冷却するのに対して、前者では、ヘリウムを利用した冷凍機かどうか、その冷却温度がどの程度かが明らかでない点で相違しているものの、超低温のパネルによって水分子を凍結捕集(凝縮・吸着)する熱交換器である点では一致しており、引用発明1の「排気トラップ部」が、訂正発明にいう「熱交換器」に相当することは明らかである。
(ロ) この点について、原告らは、訂正発明は、クライオポンプの使用をあえて排除した点に主たる特徴があるものであるから、クライオポンプを使用する引用発明1の「排気トラップ部」が訂正発明の「熱交換器」に相当することはあり得ない旨主張する。
(ハ) 甲第3号証によれば、訂正明細書の発明の詳細な説明には、「ヘリウム冷凍機を使用し15゜Kから20゜K程度の超低温の熱交換器を備えた所謂クライオ真空ポンプを用いた場合には、水蒸気についての排気特性が良好となるので、上述の不都合にある程度対処することができる。しかしクライオ真空ポンプの場合は、(1)冷凍機駆動に係わる起動・停止時間が長い、(2)いわゆる溜め込み式なので、一定の負担運転が終了する毎に再生運転を長時間に亘って行う必要がある、(3)気体分子の種類により昇華温度が異なるため、再生運転時には熱交換器の温度上昇に従って各種気体分子は高濃度にて順次ポンプから分離排出されるが、この分離排出に対応してその後の処理を行うことが困難である。特に半導体製造プロセスにおいては、モノシラン(SiH4)、フッ化水素(HF)のような有毒、高腐蝕性、爆発性、可燃性の気体を窒素(N2)、ヘリウム(He)等の不活性ガスで希釈して使用するので、これら各種気体が分離排出されることに対応するのが非常にむずかしい、という問題点があった。本発明は上述した従来技術の欠点に鑑みて提案されたものであり、分子量が小さい気体、特に水分子の排気特性が良好であり、再生が容易で排気運転が可能な排気装置を提供することを目的としている。」(5頁5行~6頁11行)、「本発明の真空排気装置によれば、排気運転を行なう場合は、吸気口の上流側に設けた締切弁を開け、ヘリウム冷凍機により熱交換器表面を冷却しガス分子凍結捕集による真空排気と、夕ーボ分子ポンプによる真空排気とを組合せた排気作用を行なうことができる。」(9頁6行~11行)、「クライオ真空ポンプ単独による真空排気とは異なりターボ分子ポンプとの組合せであるため、再生から再生までの排気運転を非常に長く行なうことができ、更に前述のように短時間で再生を行なうことができる。」(10頁19行~11頁3行)との記載があることが認められる。
上記記載に、前記(1)認定の事実をあわせて考えれば、訂正発明は、「クライオポンプ」で示され得るものの中の代表的なものである2段構造のクライオポンプの長所と短所に鑑み、その短所に着目してこれを排除したものの、「クライオポンプ」で示され得るもののすべてを排除しているのではなく、上記2段構造のうちの1段、すなわち、130°K以下に冷却されるシールド及びバッフル部分のみを備えるものは排除することなく、これに対応する「ヘリウム冷凍機により-100°C~-200°Cの温度に冷却され・・・る熱交換器」として使用しつつ、これをターボ分子ポンプと組み合わせて真空排気を行うものであるということができる。
(ニ) 一方、引用発明1においては、前述のとおり、排気トラップ部8は、クライオポンプ10の低温特性を利用した80Kアレー9aとバッフル9bとにより構成され、80Kアレー9aとバッフル9bは、クライオポンプ10の低温部からの熱伝導を受けてのトラップ効果により、水分子と輻射熱の大部分を吸着するというものであるから、80Kアレー9aとバッフル9bを超低温に冷却することによって、水分子を凝縮・吸着しているものであって、「クライオポンプ」で示され得るものを利用していることが明らかであり、しかも、80Kアレー9aとバッフル9bが水分子の大部分を凝縮・吸着するものということであるならば、訂正発明における熱交換器の場合とほぼ類似した温度となることは明らかである。
そうすると、訂正発明及び引用発明1は、いずれも、クライオポンプで示され得るもの一種を利用しており、少なくとも、引用発明1の排気トラップ部は、訂正発明の熱交換器と対比したとき、ヘリウムを利用した冷凍機かどうか、その冷却温度がどの程度かが明らかでない点で一応相違しているとはいえるものの、その他は構成、機能において変わるところがないということができる。
訂正発明が、クライオポンプの使用をあえて排除した点に主たる特徴があるとし、これを前提に、クライオポンプを使用する引用発明1の「排気トラップ部」が訂正発明の「熱交換器」に相当するとはいえないとする原告らの主張は、「クライオポンプ」の語が原告らの主張する意味においてしか使用されないとの誤った前提に立たない限り成立し得ないものであり、採用できない。
付言するに、甲第4号証の第1図(別紙図面(2)第1図)の「10 クライオポンプ」が冷凍機そのものであることは、第1図自体から明らかである。その意味で、引用刊行物1における「クライオポンプ」の語の用法は、やや正確さを欠いているということができる。しかし、上記認定のとおり、冷凍機である「10クライオポンプ」によりバッフル9b、80Kアレー9aを冷却し、気体を冷却凝固させることにより蒸気圧を極めて低くして、高い真空を作り出そうとしていることからすれば、これを全体として、「クライオポンプ」のうちの上記の働きを示す種類のものとなるのであり、引用刊行物1において「クライオポンプ」という語が使用されているからといって、訂正明細書にいう「クライオポンプ」と同義になるものでないことは、明らかである。原告らの主張は、引用刊行物1にいう「クライオポンプ」と訂正明細書にいう「クライオポンプ」とを同視し、これを前提として、クライオポンプを使用する引用発明1の「排気トラップ部」が訂正発明の「熱交換器」に相当することはあり得ないとするものであるから、その前提が認められない以上、成り立ち得ないのである。
(3) 水分子の選択的な凍結捕集について
引用発明1の排気トラップ部8が、水分子の大部分を凍結捕集(凝縮・吸着)していることは、原告らも争わないところである。
原告らは、訂正発明と引用発明1とでは、前者が、クライオポンプを排除しているから、水分子を選択的に吸着している構成であるのに対して、後者では、引用発明1の排気トラップ部は、クライオポンプを排除していないから、水分子を選択的に吸着する構成でない点でも相違していると主張している。その趣旨は、要するに、訂正発明が2段構造のクライオポンプを排除しているのに対し、引用発明1が2段構造のクライオポンプを排除していない以上、2段構造のクライオポンプの20°K(-253°C)前後に冷却される15Kパネル部分も存在しているはずであり、水成分とともにこれより飽和蒸気圧の高い有害なガスをも凍結捕集していると主張するものということができる。
(イ) まず、甲第4号証によれば、引用刊行物1の実施例1を示す第1図(別紙図面(2)の第1図参照)には、排気トラップ部8とターボポンプ2とが連結され、排気トラップ部8は、80Kアレー9aとバッフル9bとから構成されており、この80Kアレー9aが、クライオポンプ10に連結された構成が示されているだけであることが認められる。
また、同号証によれば、引用刊行物1には、実施例2について、「排気トラップ部8は前述の実施例と同様に80Kアレー9aとバッフル9bとからなり、さらにこれらを冷却するクライオポンプ10を備えている。」(4頁19行~5頁1行)、「実施例において、プロダクトチャンバー12にウェハーを装着し、該チャンバー12をロータリーポンプ1で荒引き排気し、第1のバルブ17を開放し、高真空に排気する。そのときクライオポンプ10によって冷却されたバッフル9b及び80Kアレー9aによってH2Oと熱輻射の大部分は吸着され、さらにクライオポンプ18により高真空に排気した後、第2のバルブ13を開放し、ソースチャンバー14内のソースによりプロダクトチャンバー12内のウェハーに蒸着を行う。」(5頁4行~13行)との記載があることが認められ(別紙図面(2)の第2図参照)、これらの記載によれば、実施例2の排気トラップ部8は、実施例1の排気トラップ部8と同様であり、実施例2においては、これに更にクライオポンプ18を連結し、前者において、水分子(H2O)と熱輻射の大部分を吸着した後、後者において、さらに高真空に排気を行う、というものであることが明らかである。
そうすると、引用発明1(引用刊行物1の実施例1として示された技術)を同刊行物の実施例2との対比においてみたとき、前者においては、2段構造のクライオポンプの20°K(-253°C)前後に冷却される15Kパネル部分が開示されていないことが明らかというべきである。引用刊行物1に「クライオポンプ」という記載があるとしても、このことから、引用刊行物1にいうクライオポンプ10と排気トラップ部8が上記の2段構造の代表的なクライオポンプの構造であるとはいえないのである。
以上によれば、引用発明1は、前述のとおり、80Kアレー9aとバッフル9bを超低温に冷却することによって、水分子を凝縮・吸着しているものであり、それ以上に、水成分より飽和蒸気圧の高い有害なガスをも凍結捕集していることをうかがわせる資料は存在しないから、水分子を選択的に凍結捕集しているとみ得ることは明らかである。
(ロ) 原告らは、引用刊行物1には、水分子以外のガスを全く凍結吸着せず、水分子のみを吸着するという技術的思想が示されているわけではない旨主張する。
甲第4号証によれば、引用刊行物1には、「真空ポンプを有する半導体製造装置において、半導体製造装置本体の排気トラップ部にクライオポンプを装備したことを特徴とする半導体製造装置」(実用新案登録請求の範囲)、「本考案は真空ポンプを装備した半導体製造装置に関する。」(1頁11行及び12行)、「上述した従来のトラップに対し、本考案はガス閉サイクルのポリコールドの利点とLN2のトラップ効果の効率良さを取り入れ、低温部から熱伝導によりバッフルに伝導しトラップ効果を向上させるという独創的内容を有する。」(2頁11行~15行)、「本考案は真空ポンプを有する半導体製造装置において、半導体製造装置本体の排気トラップ部にクライオポンプを装備したことを特徴とする半導体製造装置である。」(2頁17行~末行)との記載があることが認められる。
また、甲第9号証ないし第11号証によれば、真空ポンプは、半導体製造装置において著しく重要な役割を担っており、1950年代には、油拡散ポンプがもっぱら使用されていたのが、1958年にはスパッタイオンポンプ、ターボ分子ポンプが、1960年代にはクライオポンプが登場し、その後も、高真空化、清浄化(ガスの凝縮・吸着)が追求されていたことが認められる。
さらに、甲第10号証及び弁論の全趣旨によれば、水分子を選択的に冷凍吸着する温度範囲について、飽和蒸気曲線から採用し得ることは、当業者間で周知であったものと認められる。
以上によれば、引用発明1は、高真空化、清浄化を目指す真空ポンプであり、また、排気トラップ部のトラップ効果を向上させることを技術課題の一つとしているものであることが認められ、しかも、前述のとおり、引用発明1には、引用発明1の排気トラップ部8において、80Kアレー9aとバッフル9bが、クライオポンプ10の低温部からの熱伝導を受けて、トラップ効果により、水分子と輻射熱の大部分を吸着するとの技術が開示されており、また、水分子を選択的に冷凍吸着する温度範囲について、飽和蒸気曲線から採用し得ることは、当業者間で周知であったのであるから、引用刊行物1に接した当業者は、引用発明1の技術から、水分子を選択的に冷凍吸着するという技術を容易に想起し得たことが明らかであるというべきである。
訂正発明の進歩性を検討する一資料としての引用刊行物について考慮されるべきは、同刊行物に明記されている技術のみならず、同刊行物に接した当業者が、これからいかなる技術を想起し、認識し得るかということである。
原告らの主張は、失当というほかない。
2 取消事由2(訂正発明と引用発明1との相違点1についての判断の誤り)について
(1) 相違点1は、訂正発明においては、ヘリウム冷凍器により-100°C~-200°Cに冷却されるのに対し、引用発明1においては、ヘリウムを利用した冷凍機かどうか、その冷却温度がどの程度かが明らかでない点に係るものである。
甲第5号証によれば、引用刊行物2には、「JFT2用ベーカブルクライオポンプ」との題で、「1.はじめに 日本原子力研究所のJFT2トカマク型プラズマ実験装置の主排気系用に、クライオポンプとターボモレキュラポンプを、直列に接続した排気系が製作された。蒸気圧が窒素より低い気体はクライオポンプによって排気され、水素、ヘリウム、ネオンについては、クライオポンプ下流に設置されたターボモレキュラポンプによって排気される。」(26頁5行~10行)、「2.排気系の構成 Fig1に排気系の構成を示す。排気系は、上流部より、①マニホールド、②クライオポンプ(窒素に対する設計排気速度2700l/sec)、③ターボモレキュラポンプ(窒素に対する排気速度2000l/sec)、④液体窒素冷却のフォアライントラップ、⑤メカニカルブースターポンプ(排気速度500m3/hr)、⑥油回転ポンプ(排気速度760l/min)から主として構成されている。3.クライオポンプ Fig2にクライオポンプの内部構造を示す。・・・③ヘリウム冷凍機、④ポンプハウジングより構成されている。ヘリウム冷凍機は、クライオパネルベークアウト時に取りはずし可能な構造としてある。」(同頁14行~27頁4行)との記載があることが認められる。
上記記載によれば、昭和54年11月当時には、ヘリウム冷凍機とポンプハウジングとから構成されるクライオポンプとターボ分子ポンプとを直列に接続し、上流には、クライオポンプを配して、飽和蒸気圧が窒素より低い気体を排気(凍結捕集)し、下流には、ターボ分子ポンプを配して、飽和蒸気圧が高い水素、ヘリウム、ネオンの気体を排気するという技術が公開されていたことが認められるから、超低温冷却のために、ヘリウム冷凍器を使用することは、本件出願当時に周知の事柄であったものというべきである。
そして、水分子を選択的に冷凍吸着する温度範囲について飽和蒸気曲線から採用し得ることが当業者間で周知であったことは、前述のとおりであり、また、引用刊行物1にいう「80Kアレー」との記載が、「80°K」(-193°C)を念頭に置いたものであることは、弁論の全趣旨から明らかである。
以上によれば、当業者が、本件出願時に、引用発明1及び同2から、前記相違点1に係る訂正発明の技術事項に容易に想到し得たことは明らかというべきである。
(2) 原告らは、引用刊行物1について、「冷却温度は水分子が冷凍吸着する温度範囲でクライオポンプが運転されているものと解するのが自然である」とした本件決定の認定を論難し、クライオポンプは、単なる冷凍機とは異なり、あくまでも超高真空ポンプであって、それが任意の温度変更ができるようなものでないことは、当業者であれば誰でも知っている旨主張する。
しかしながら、クライオポンプの語が原告らの主張する意味以外の意味でも用いられ得るものであることは、前記1(1)認定のとおりである。そして、引用発明1にいうクライオポンプ10と排気トラップ部8が2段構造の代表的なクライオポンプとは異なる構造であることは、前述のとおりである。原告らの主張は、採用できない。
その余の原告らの主張も採用できない。
3 取消事由3(訂正発明と引用発明1との相違点2についての判断の誤り)について
(1) 訂正発明1と引用発明1とで、引用発明1の排気トラップ部が訂正発明の熱交換器に相当するか否かの点を除けば、本件決定の相違点2の認定について、当事者間に争いがない。そして、引用発明1の排気トラップ部が訂正発明の熱交換器に相当することは、前記認定のとおりである。
そうすると、「請求項1に係る発明は、締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転した状態で、該熱交換器をヒータで加熱するかもしくはヘリウム冷凍機を休止することによって熱交換器に凍結捕集した分子を気化させる再生手段を有するのに対し、刊行物1記載のものは、再生手段については明らかでない点」(相違点2)で相違するとした本件決定の認定に誤りはない。
(2) 原告らは、相違点2について、締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転した状態で熱交換器を再生することは、前記刊行物3に記載されており、熱交換器に再生手段(又は再生工程)として加熱ヒータを設けることも前記刊行物4に記載されている、とした本件決定の認定を争う。
引用刊行物3(甲第6号証。1980年JOHN WILEY&SONS、INC.発行の「A User’s Guide to Vacuum Technology」)には、「10.1.1システムオペレイション」の「10.2ターボ分子ポンプシステム」に、システム図として「Fig10.5」(265頁)が示され、また、「セクション10.1.1に記載されているとおり使用する場合、システムの閉鎖は高真空バルブを閉じ、液体窒素トラップを暖めることによって開始される。トラップが平衡状態になったとき、フォアラインバルブが閉じられ、ターボ分子ポンプのモータへの動力が除去される。」(268頁16行~20行)との記載があることは、当事者間に争いがない(審決書6頁5行~7頁1行参照)。
上記争いのない事実によれば、引用刊行物3には、システムの閉鎖の際に、まず、高真空バルブを閉じ、ターボ分子ポンプを運転した状態で、液体窒素トラップを暖めるとの技術(引用発明3)が記載されていることが認められるから、そこには、相違点2に係る「締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転した状態で熱交換器を再生する」という技術事項が示されているということができる。
また、引用刊行物4(甲第7号証。米国特許第4679402号明細書)に、「時々、コールドトラップは、コールド表面に集積される汚染物を除去し、清掃しなければならない。時間を減少させるために、外部温度にコールドトラップ10を暖めるために、ヒートテープ32のストリップがスリーブ26の周りに巻かれる。ヒートテープは、スリーブに巻かれテープされたワイヤから熱を伝達する電気装置である。コールドとラップ10が外部温度に暖められると、トラップは迅速に除去でき掃除することができる。」(3欄50行~59行、FIG2)との記載があることは、当事者間に争いがない。
上記争いのない事実によれば、引用刊行物4には、相違点2に係る「熱交換器に再生手段(又は再生工程)として加熱ヒータを設ける」という技術(引用発明4)が記載されていることが認められる。
以上によれば、当業者が、引用発明1に同3及び同4を適用して、前記相違点2の技術事項に容易に想到し得たことは明らかというべきである。
(3) 原告らは、訂正発明は、真空容器と熱交換器との間の締切弁を締めるだけで、システムをあえて閉鎖させる必要なく、しかも、システムを閉鎖させずにターボ分子ポンプの運転を継続させることにより、積極的に熱交換器の再生を行うことができるのに対して、引用刊行物3には、システムを閉鎖させずにターボ分子ポンプを運転した状態で、再生させることについては一切記載されていない旨主張する。
しかしながら、訂正発明の特許請求の範囲には、システムを閉鎖させずにターボ分子ポンプの運転を継続させることにより、積極的に熱交換器の再生を行うという技術事項に関する構成はなく、発明の詳細な説明にも何らの記載も見出すことができない。
なお、仮に、原告ら主張のとおり、訂正発明が、真空容器と熱交換器との間の締切弁を締めるだけで、システムをあえて閉鎖させる必要なく、しかも、システムを閉鎖させずにターボ分子ポンプの運転を継続させることにより、積極的に熱交換器の再生を行うことができるという構成のものであるとしても、引用発明3に接した当業者が、高真空バルブを閉じ、ターボ分子ポンプを運転した状態で、液体窒素トラップを暖めるという技術を、システムの閉鎖の際でなく、システムを閉鎖しない状態で引用発明1に適用してみようとすることはごくありふれた発想というべきであり、本件全証拠によっても、当業者がそのような発想をすることについて格別の困難性も見出すことはできない。
(4) したがって、「締切弁を閉じ、ターボ分子ポンプを運転した状態で熱交換器を加熱する再生工程について、前記刊行物3に記載されている」との前提の下に、相違点2は、当業者が容易に想到し得たものと認められるとした本件決定の判断に誤りはない。
4 取消事由4ないし6(本件発明と引用発明1との一致点の誤認、本件発明と引用発明1との相違点1及び同2についての判断の誤り)について
本件発明と引用刊行物1との一致点の誤認、本件発明と引用刊行物1との相違点1及び同2についての判断の誤りに関する原告らの主張が採用できないものであることは、取消事由1ないし3の認定判断において述べたところから明らかであり、取消事由4ないし6も、理由がない。
5 以上のとおりであるから、原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他本件決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 宍戸充 裁判官 阿部正幸)
<以下省略>